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ワイン用ブドウ品種の知られざる味わいと、ローカルワインの楽しみ<前編・ワインづくりは、ブドウづくりから>『趣味の園芸』8月号こぼれ話

ワイン用ブドウ品種の知られざる味わいと、ローカルワインの楽しみ<前編・ワインづくりは、ブドウづくりから>『趣味の園芸』8月号こぼれ話

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。

 

今回はテキスト8月号特集の記事「東京のブドウでワインをつくる」で取材させていただいたワイナリーの経営者、越後屋美和さんに、ワイン用ブドウ品種についてお聞きしました。 ぜひ、誌面とともにお楽しみください。

 

編集部(以下、編):『趣味の園芸』テキストのウェブサイトなので、まずはブドウの栽培のことについてお聞きしたいのですが、栽培管理に特に気遣いが必要な品種はありますか。

 

越後屋(以下、越):ヨーロッパ系の品種は、東京ではどれも気を遣います。晴れて雨が少なく、夏も涼しい気候のもとで改良された品種が多いからでしょうね。東京では梅雨時から初秋まで高温で湿度の高い日が続くので、想像以上に病気や害虫への対策に手間がかかって......。日本では標高の高い地域や北国を除けば、どこも同じ苦労があるのではないでしょうか。生産をお願いしている農家さんには本当に頭が下がります。北海道や東北地方ではきちんと育つのに、どんなに工夫しても、この東京の気候風土では失敗続きという品種がありますから。

 

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代表的なヨーロッパ系白ワイン用品種の'シャルドネ'。

 

:なかなかいい味が出ないということですか。

 

:そういうこともありますが、それ以前に、そもそも収穫まで至らないとか、木が大きく育たないとか、根本的な問題を抱えた品種もあるんです。ブドウも植物、生き物ですから、適した土地でないと難しい場合があるということです。

 

:日本でもヨーロッパ系の品種でつくられたワインがふえてきましたが、全国の生産者の方々は苦労されているのでしょうね。逆に、気を遣わなくてすむ品種はありますか。

 

:日本に自生しているヤマブドウは強くて頼もしいです。国内のワイン用ブドウの代表格の一つとされる'マスカット・ベーリーA'もつくりやすいブドウですよ。「日本のワイン葡萄の父」と呼ばれる川上善兵衛さんが作出した品種です。あとは'甲州'ですね。ヨーロッパブドウの遺伝子が入っている割には、比較的育てやすいと思います。ヤマブドウと'甲州'は収穫量も多いので、ワインをつくる立場からするとありがたいです。

 

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越後屋さんのお店「東京ワイナリー」は東京・練馬区にある。かわいらしい看板が目印。

 

:収穫する前にブドウを食べてみることはあるのでしょうか。

 

:もちろんです。東京で生産をお願いしている品種は、農家さんのところにうかがって食べてみます。そうしないと、でき具合がわかりませんから。一例を挙げれば、ワインにする場合は必ずしもブドウが完熟していればよい、というわけではないんです。特に白ワインでは完熟の少し前、酸味が残っているところで収穫します。その判断をするには、実際にブドウを食べてみるのが手っ取り早いですから。あるいは、赤ワインをつくる場合、タネを噛んでタンニンの渋みに含まれた味をみます。ワインの醸造には果肉だけではなくタネや皮も使いますが、タネがナッツっぽく感じられればいいけど、青みを感じる場合は、使うタネの量を少し減らすなど調節します。果実をつぶして果汁の酸味を調べたりもします。そのようにして、収穫する前に今年のこの品種はどんなワインに向くのだろう、と考えを巡らせます。

 

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越後谷さんのところでは、生産量が少ない品種は小さいガラスのボトルで発酵させている。

 

:同じ品種でも、年ごとにブドウの味わいが変わるということでしょうか。

 

:そうですね。基本的な味は変わりませんが、微妙な味の違い、品質の違いでも、ワインにしたときには大きな違いとなってあらわれることがあります。いい香りの成分が、その年の気候によって強まったり弱まったりもしますしね。例えばメルローは赤ワイン用の品種ですが、果実の味をみて、場合によってはロゼにすることもあるんです。最近は雨量がふえているので、特に雨が多い年などは、果実を食べてみて収穫時期を通常よりも早める決断をすることもありますよ。ブドウの品質は気候変化の影響を大きく受けるので、判断の遅れが失敗につながらないように気をつけています。

 

:なるほど。ワインづくりはブドウづくりから、というわけですね。

 

:そのとおりです。なにしろ、ワインの原料はブドウ以外に何もありませんから。水さえも使わないでしょう。だから原料のブドウがよければ、まず間違いなくワインはおいしくなるんです。

 

後編に続く! <東京の個性をワインで表現したい

 

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越後屋美和(えちごや・みわ)

ワイナリー経営者。玉川大学農学部を卒業後、青果や花きを扱う仲卸の大田市場に勤務。山梨大学のワイン科学研究センターや広島の酒類総合研究所、山梨県のワイナリーなどで2年間ほど学び、2014年に醸造免許を取得。同年、練馬区大泉学園町に東京初のワイナリー「東京ワイナリー」をオープン。

 

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テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)

 

『趣味の園芸』2020年8月号(7/21発売)

 

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「東京のブドウでワインをつくる」(p.34~)では、都内でブドウ栽培に奮闘する越後谷さんを取材。まちなかワイナリー物語をお届けします。

 

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8月号の内容はこちら

 

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