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おもと鉢の世界~連載「ディーププランツ入門」12月号こぼれ話

おもと鉢の世界~連載「ディーププランツ入門」12月号こぼれ話

『趣味の園芸』12月号「ディーププランツ入門」の第9回は、11月号に続き、伝統園芸植物・万年青(おもと)について紹介しました。

 

ここでは、誌面で紹介しきれなかった「おもと鉢」についてご紹介します。万年青の世界の奥深さは、植物だけでなく、鉢の世界にも広がっているのです。

 

万年青専門店「豊明園」を営む水野豊隆さんが、教えてくれます。

 

じつは直径と高さが同じ

「ディーププランツ入門」では、11月号・12月号と2号続けて万年青を紹介してきましたが、どの万年青も、立派で美しい鉢に植えられていたのにお気づきでしょうか。中でも縦長で鉢の縁が広く、3本の足がついている鉢が「おもと鉢」のスタンダードな形です。縦長と書きましたが、じつは広い鉢縁の直径と高さは同じで、この形状のことを「胴返し」と呼びます。

 

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スタンダードな「おもと鉢」は縦長に見えるが、じつは鉢縁の直径と鉢の高さが同じで、この形状を「胴返し」という。写真の鉢は明治後期のもの。(撮影:丸山光)

 

その原型は江戸時代に

このような鉢の原型はすでに江戸時代にありました。天保中期に発刊された『金生樹譜別録』(写真)には、「京くろらく」として、現在のおもと鉢の原型が描かれています。しかし当時は、染付や六角形・八角形など、バラエティに富んだ製法・形の鉢が使われており、万年青を植える鉢として、現在のタイプが主流になったのは、「こおもと」という呼び名で流行した明治初期ごろからだと考えられます。

 

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『金生樹譜別録』(写真提供:豊明園)

 

楽焼のおもと鉢は「呼吸する」

おもと鉢のベースは黒い楽焼(安土桃山時代、千利休の作らせた陶器の種類)で、鮮やかな絵付けを施されています(錦鉢という)。その製法は独特で、絵を描くもととなる楽焼の黒鉢を作る際は、鉢を成型して1200℃で数分焼き、まだ鉢が熱く真っ赤なうちに水に漬けて冷やす「急熱急冷」が特徴です。急速に冷やすことで鉢に目では見えないほどの微細なひび(強度には全く問題ない)ができ、鉢としての通気がとてもよくなり、「呼吸をする鉢」とも言われています。思ったよりも数段軽いことにびっくりされる方も多いです。この呼吸をする楽鉢で万年青を作ることで、根張りのよい万年青作りを楽しむことができるのです。

 

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急熱急冷の楽焼の製造過程。京都祇園の短冊家和楽にて。(写真提供:豊明園)

 

五柳鉢(ごりゅうばち)について

今もすばらしい楽鉢が製造されていますが、明治期から昭和初期にかけて作られた鉢には骨董的価値を持つものもあり、特に有名絵付師の描いたものは貴重で、人気があります。12月号で紹介した「五柳鉢」は、そんな人気の骨董的価値の高い鉢のひとつです。五柳(五竜、五龍とも)は、明治から昭和初期に活躍した楽焼の絵付師といわれていますが、情報が少なく、謎に満ちた人物です。彼の作とされる鉢は、独特な模様と技の繊細さが特徴で、人気の高さから、写しや贋作も多く、また現代でも復刻版が作られています。

 

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豊明園所蔵の五柳鉢。(撮影:丸山光)

 

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鉢の内側に描かれた五柳作を表すマーク。(撮影:丸山光)

 

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短冊家和楽の「牡丹尽」。五柳(五龍)時代のデザイン帳があり、それを元にした復刻版。(写真提供:豊明園)

 

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現代の名絵付師・布施覚氏(1934年生まれ)の「桜御所車図鉢」(写真提供:豊明園)

 

人気の柄や万年青と鉢の組み合わせ

縁起物の万年青には、やはり縁起のよい絵柄が似合います。どの絵柄にも意味があり、例えば、青海波(せいかいは)は「海の波のように良いことが永遠に続く」といった意味があります。また、渋い落ち着いた柄の錦鉢はどんな万年青にも合いますが、迫力のある派手な錦鉢が合う万年青も多くあります。万年青と鉢を組み合わせるときには、柄だけではなく、鉢のサイズも重要で、万年青の大きさよりも少し鉢が小さいかな、という鉢の大きさがベストです。

 

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12月号で紹介した新生殿。鉢と万年青のバランスが調和している。(撮影:丸山光)

 

12月号の「ディーププランツ入門」では、万年青が流行するきっかけとなった「徳川家康の江戸城入城」と「引っ越し万年青」の関係、「交配と実親」について、そして万年青の銘品を紹介しています。テキストとあわせてご覧ください!

 

202012e_01.jpgのサムネイル画像

『趣味の園芸』12月号の紹介はこちら

 

 

教えてくれた人

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水野豊隆(みずの・とよたか)さん

園芸家/1983年生まれ。京都大学農学部卒。万年青専門店「豊明園」の4代目。英米での園芸研修を経て、若い世代や海外にも万年青を広めようと、書籍の執筆のほか、ブログやYoutube動画でも積極的に情報発信している。

 

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園芸の入り口は限りなく広く、その先は限りなく深い。『趣味の園芸』テキスト連載「ディーププランツ入門」では、毎月、特定の植物を深く愛する人たちに、その植物の魅力を教えてもらいます。誌面に収まりきらなかったこぼれ話をウェブ限定で公開!

これまでのこぼれ話はこちら

 

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