なぜ、観葉植物の専門店を? 谷奥俊男さんに、グリーンと暮らす醍醐味を聞きました!『趣味の園芸』1月号こぼれ話<前編>
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。
1月号で、観葉植物と暮らすことについて、園芸ビギナーにもわかりやすく教えてくれた谷奥俊男さんは、京都市二条で生花店と観葉植物店を営んでいます。親から受け継いだ生花店だけでなく、なぜ観葉植物の専門店を開こうと考えたのか。谷奥さんの「観葉植物」に懸ける熱い思いをうかがいました。
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生花店は、5月の「母の日」が終わると、夏の間は売れ行きがガクッと落ち込みます。暑さで花持ちが悪くなるからです。その「生花が売れない期間」の売上をつないでいたのが、観葉植物でした。11月ごろ、また生花の需要が増え始めると、観葉植物は花市場からもサーッと姿を消してしまいます。店にとっても市場にとっても、観葉植物は「売るものがない時期だけ」扱うもの、 'ピンチヒッター'だったんです。でも私は、そこに疑問を感じていました。生きているものを販売側の都合だけで流通を調整させるなんて、やっぱり何か違うんじゃないかと。花を扱う店がもっと植物に興味と愛着を持っていかないとどうする!と思ったんですね。
とはいえ、11月~3月は花市場に観葉植物はあまり出回りません。
じゃあどうやって仕入れればいいか? 考えた末に「そうか、生産者さんのところに直接行けばいいんだ!」と思いつき、まずは観葉植物の一大生産地・沖縄に行ってみました。すると、市場では見たことのないような、珍しくて美しい観葉植物がたくさんある。驚いたし、感動しました。産地には1年中こんなにあるのか、と。今まで市場に入荷するものが「世の中に出回っている植物」だと思っていました。そこで「こんな素敵な植物が1年を通じてあるなら、これを是非お客さんに届けたい」と、年中観葉植物がある専門店を開くことを決意したんです。
店舗物件を探していて、写真スタジオとして使用されていた古い倉庫を偶然見つけました。天井が高くて窓も多く、光や風通しの面からみても植物を育てるのに適した環境で「ここだ!」と思いました。立地としては路地の奥で目立たないし、その当時は関西で観葉植物専門店なんて前例がないと反対する声も多かったですが、植物の放つ魅力を信じてよかったと、今では思います。
緑の楽園のような、谷奥さんのショップ。
今も沖縄と鹿児島、愛知県に出向いて、ひとつひとつ自分の目で見て、気に入った植物を仕入れています。熱意のある生産者さんが多く、新しい品種や丈夫に育つ管理方法などを日々研究されていて、植物への深い愛情を感じます。また、枝が曲がっていたり、自由奔放に伸びていたりする個性的な樹形を選んでいるので、「自分だけのグリーン」を見つけて、唯一無二のググッ!とくる出会いを楽しんでほしいです。
――まるで、ペットを選ぶときのようですね。
そうなんです。観葉植物を家に迎えるときは、ペットと同じように「これが好き!」という気持ちが大事だと思います。店に来てくださるお客さんからも「私に育てられる植物はありますか?」と聞かれるんですが、とにかく好きなものを選ぶのが一番です。すると「どれが好きか、わからない」とおっしゃる(笑)。しかし、たとえば家具屋さんでいきなり「私の部屋に合うカーテンはどれですか?」と、店員さんに聞きますか? 聞きませんよね。観葉植物も同じです。
何を選べばいいかわからなかったら、まず、自分の部屋をどんな雰囲気にしたいのか、イメージを明確にすることからスタートしましょう。かわいいテイストが好きなら、そこに置く植物も丸い葉で、柔らかいフォルムが似合います。スタイリッシュでかっこいい部屋に憧れるなら、直線的でシャープな樹形がおすすめです。このように、好みのインテリアのテイストを伝えると、店員もアドバイスしやすいと思います。そうやって、自分で選んだ植物なら、愛着も倍増。ずっと大事にしたくなるので、枯らす失敗も少なくなるはずです。
――しかし、じつはそんな谷奥さんでも、観葉植物店を開いた直後は、枯らしてしまう失敗も多かったのだそう。
生花店で扱うのは「切り花」です。だから、それまで長く家業に携わってきたものの、観葉専門店を始める前は、植物を真剣に育てたことはありませんでした。仕事で花をたくさん扱うから、家に帰ってまで植物とかかわらなくていいや、と(笑)。「紺屋の白袴」ってヤツですね。けれど、枯らしてからは「育てたことがない人が、植物を売ってはいけない」と思って、栽培に真剣に向き合いました。自分の家を実験場にして、育てるのが難しいと言われる植物がなぜ枯れるのか? 枯らさないためにどのような環境がよいのか? 試行錯誤を重ね今に至りました。
テキスト1月号でも紹介した、緑がいっぱいの谷奥さんのご自宅
ご自宅のアーバン・ジャングルでは、愛犬のチョコちゃんと愛猫のリーフくんも、のんびり。
写真撮影:田中雅也 撮影協力:cotoha
栽培の研究を重ねた谷奥さんが到達した「枯らさない取り組み」とは? 後編に続きます。
谷奥 俊男(たにおく・としお)
京都で室内植物店「Cotoha」と生花店「Blowmist BOOM」を経営。鉢植えは、販売時のカウンセリングと販売後のフォローで「枯らさない」ケアを徹底。遠方から訪れる人も多く、全国の顧客から厚い信頼を集めている。
「テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)
『趣味の園芸』2021年1月号(12/21発売)
「知識ゼロから始める 観葉植物 超入門」では、谷奥さんが植物と仲良く暮らすコツを、「光・風・水」のメソッドで初心者にもわかりやすく教えてくれました。