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ビカクシダの栽培とその魅力について、さらに突っ込んで杉山拓巳さんに聞いてみた!【趣味の園芸7月号こぼれ話・後編】

ビカクシダの栽培とその魅力について、さらに突っ込んで杉山拓巳さんに聞いてみた!【趣味の園芸7月号こぼれ話・後編】

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。

 

今回は、7月号インドアグリーン特集の「今日からはじめるビカクシダ」で、ビギナーに向けてビカクシダの育て方を教えてくださった杉山拓巳さんが登場。ビカクシダについて、ちょっと奥深いお話を伺います。

 

前編では<枯れの美学>についてお聞きしましたが、後編では、ちょっと過激な<ビカクシダの耐寒性テスト>についてお聞きします。栽培についての基本的な考え方をめぐるお話です。

 

編集部(以下、編):前編でお伺いした「枯れの美学」はビカクシダの魅力にフォーカスした興味深いお話でした。今回は打って変わって、冬にビカクシダの「耐寒性テスト」をされたときのお話ということですが。

 

杉山拓巳(以下、杉):ビカクシダに限った話ではないのですが、植物の育て方には一応スタンダードな方法があって、それを知ることが栽培の第一歩ですよね。でも、それはあくまでも基本として知っておくべきものであって、そこに収まりきらないことがたくさんあります。「耐寒性テスト」はビカクシダ栽培の基本から外れることについて探るために実施しました。

 

編:確かに、栽培書どおりに育てているんだけど、どうもうまくいかない、なんてこともよくあります。

 

杉:それは、みんな少しずつ栽培環境が違っているからです。本に書いてあるとおりに管理しているつもりでも、栽培環境が違えば結果も違うわけです。例えば、一口に「明るい日陰」といっても、場所によって明るさの程度はけっこう違います。あるいは、水やりの方法もみんなそれぞれに癖があって、自分では十分に与えているつもりでも少し足りなかったり、逆にやや多かったりということがあります。光の強さや水の量の違いによってビカクシダがダメになることはなくても、成長のスピードや株姿、株のサイズに思いのほか大きな違いが出ることがあります。

 

編:思い当たることがあります。わが家でも、暗いところでも大丈夫と聞いた植物を植えて2年たったら、弱ってダメになってしまったんです。苗を買い直して植えなおしても、やっぱり同じように2年ほどで枯れてしまった。なのに、別の植物を植えてみたら問題なく育ちました。同じように「暗いところでも育つ」といわれる植物でも、差があるんだなと学びました。

 

杉:専門家でもわからないことは、けっこうあります。そこでやってみたことの一つがビカクシダの「耐寒性テスト」でした。多くのビカクシダは生育のために必要な最低温度が5~12℃ほどの範囲にありますが、「耐寒性テスト」は、その先を知るために行いました。

 

編:つまり、どこまでなら耐えられるか=生存できるかを試したわけですね。

 

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風雨の当たる戸外のフェンスに吊るしっぱなしにした株の一部の種類は枯死したが、いくつかは大きな損傷を受けながら成長点が生きていたため、春を迎えて復活した。

 

杉:まあそうですが、もう一つ知りたかったのは「肥料と耐寒性の関係」でした。一般に植物の耐寒性をアップさせるためには肥料を控えめにして株を引き締めるとよい、とされていますが、ビカクシダの場合もそうなのか。それを自分で試してみたわけです。

 

編:結果はどうだったのでしょう。

 

杉:うちの庭は真冬のいちばん寒い日に零下5℃ほどになりますが、2年続けて試してみた結果、肥料をやや多めにしたほうが寒さに耐えることがわかりました。そのほうが枯死する株や損傷が少なかったんです。

 

編:生育最低温度が5~12℃なのに、肥料をやや多めにしたら、種類によっては零下5℃でも耐えたわけですね。どの種類がその寒さに耐えられたのでしょうか。

 

杉:ビフルカツムや、ヴィーチーやその選抜品種などです。グランデは枯死しました。このテストは、厳しい環境にさらすと植物の限界がわかるからこそ、種類ごとの性質や好みの環境がよくわかる、という実例でもあります。もっとも、こうしたテストは一般の方にはおすすめできません。株が非常に傷んで観賞価値が著しく損なわれますから。

 

編:ビカクシダを1株、あるいは2~3株しか育てていない人には無理な気がします。

 

杉:それに、このテストはあくまでもうちの庭に限っての話です。皆さんの栽培環境で同じ結果が出る保証はありません。ここでは科学実験において重要とされる「再現性」は無視しています。「自分の栽培環境ではどうなのか」を知ることが目的だからです。

 

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木に着生させたビフルカツムも零下5℃に耐えて冬を越した。

 

編:よくわかりました。ビカクシダを育てるなら、というか、どんな植物でも自分の栽培環境をよく知るところから始めよう、ということですね。

 

杉:そのとおりです。この話のキモは「唯一絶対の正解はない」ということ。言い換えれば「テキストや栽培書に書かれているとおりに育てても、自分の栽培環境では必ずしもそのとおりにならないことがある」ということです。書かれたことだけを頼りにして、いつまでも自分の栽培環境を知ろうとしないと、永遠に「うまくいかない」と悩むことになりかねません。

 

編:編集部の私がいうのもどうかと思いますが、書かれていることは「基準」でしかないと知っておくことは、大切かもしれません。

 

杉:誤解のないようにつけ加えると、「耐寒性テスト」のような極端なことをしましょう、という話でもありません。自分の育てているビカクシダを日々よく観察して、少し弱ったかなと感じたら、置き場や水やり、風通し、肥料の種類や量を少し変えてみましょう、仮説を立てて、トライ・アンド・エラーを繰り返しながら自分のやり方を見つけていきましょう、という話です。

 

編:大切な話なのでテキストにも載せたほうがよかったのかもしれませんが、紙幅が足りないので、ここでお聞きできてよかったです。ビカクシダの深い~いお話、今回もありがとうございました。

 

撮影:田中雅也

 

前編から読む

 

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杉山拓巳(すぎやま・たくみ)

熱帯植物栽培家/1978年、愛知県生まれ。愛知県でビカクシダやブロメリアなどをはじめ、数多くの熱帯植物、観葉植物の育種・生産に取り組む。「熱帯植物栽培家の気まぐれ塾YouTube版」やInstagramのライブも人気。

 

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テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)

 

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