その極上の味に病みつき 宮崎市の佐土原ナス
「秋ナスは嫁に食わすな」のことわざもあるように、夏を越えて元気を取り戻した秋ナスは、昔から秋の旬の味覚として重宝されています。今回は、日本を代表する有名シェフを「世界でいちばんおいしいナス」とうならせた、宮崎市の佐土原(さどわら)ナスを深掘りします。
江戸時代から栽培されていた宮崎の佐土原ナス
佐土原ナスは江戸時代から佐土原藩で作られていた、九州地方に多い長ナスの一種。皮が柔らかく、果肉に甘みがあって、生でも食べられます。「うちでは生でトマトやチーズと薄切りにして、バジルソースをかけて食べています。ナス特有のアクがないので、水にさらす必要もありません」と話すのは、宮崎市佐土原ナス研究会副会長の髙見和幸さんです。
加熱調理すれば、水けの多いフワフワの果肉がとろりとして、クリーミーな食感が楽しめます。地元では焼きナス、天ぷら、素揚げ、揚げびたしにして食べるのが人気だそうです。
4粒のタネから奇跡的に復活。
品質の安定と向上の努力が続く
宮崎を代表する伝統野菜として知られる佐土原ナスですが、苦難の時代もありました。固定種ゆえに、安定した交配種(F1品種)に比べて形や大きさ、色のそろいが悪い、病気に弱い、収穫量が少ないなどの理由で、1980年ごろに市場から姿を消してしまったのです。
眠っていたタネが目を覚ましたのは2000年、地元の種苗店から県の総合試験場に約20年前のタネが託され、奇跡的に4粒が発芽。2年後に35株に増やし、研究会が自家採種と選抜を繰り返しながら徐々に市場に復活させ、品質の安定と向上の努力は現在も続けられています。
大きな実を収穫するコツは、数を欲張らないこと
佐土原ナスのように実も葉も大きく、草勢(そうせい)の強い、原種に近いナスの栽培のコツを、研究会の方々に教えていただきました。「われわれはハウスで1株から40~50本収穫しますが、露地の家庭菜園なら、1株10~20本でもいいと思います。欲張らないことです。花がたくさんついたら小さい花を摘花(てきか)し、実が重いので支柱などに枝を吊って支えます。きれいな色をつけるために、影を作る葉は摘葉(てきよう)して、実にまんべんなく光を当てます。肥料と水をこまめにやることも大切です」。
研究会では周年出荷を目指していますが、年1作、2~3月に苗を植え、5~9月まで更新剪定(こうしんせんてい)をせずに収穫を続けて、10月からキュウリを栽培するのがいちばん多い作型です。
9月中旬を過ぎると実につやが戻って皮が柔らかくなり、昼夜の寒暖差で甘みが増した、美しくておいしい秋ナスがとれるそうです。
取材協力/宮崎市佐土原ナス研究会、宮崎市農政部農業振興
『やさいの時間』8・9月号では、おいしい秋ナスを味わうレシピや、収穫方法について詳しく紹介しています。
テキスト『やさいの時間』2022年8・9月号 旬ベジ二十四節気「その極上の味に病みつき 秋ナス」より