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シクラメンの魅力を深掘り!生産者さんの事情に詳しい塩見亮一さんに聞きました。【趣味の園芸12月号こぼれ話・後編】

シクラメンの魅力を深掘り!生産者さんの事情に詳しい塩見亮一さんに聞きました。【趣味の園芸12月号こぼれ話・後編】

ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」で読める「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。

 

12月号「進化するシクラメン」で、全国の栽培農家さんが丹精こめて生み出した、最新品種の魅力を教えてくれた塩見亮一さん。前編に引き続き、誌面では語り尽くせなかった「シクラメンの育種」秘話を伺います。

 

* * *

 

気の遠くなるような手間がかかるという、新しい花の育種。その大変さを「宝くじに当たるような確率」と、塩見さんは言います。

 

「花色や花形に特徴のある新品種を生み出すには、突然変異や交配の過程などで生まれる個性的な株を見つけなければなりません。その確率は、1万粒のタネをまいて、2~3株あるかないか、というくらい。約0.003%です。シクラメンの場合、タネをまいて花が咲くのは2年後。咲いたら、花を一つ一つ丁寧に観察して、変わった性質をもつ個体がないか確認していきます。たとえるなら、大量に購入した宝くじの当たり番号を調べるような気持ちでしょうか。宝くじなら、当選発表まで放置しておけますが、シクラメンは水やりに施肥など、管理も必要です」

 

「そして、ごくわずかの『当たり』が見つかったら、その個性を『特徴』として定着させるため『当たり』を親株として交配を重ねます。しかし、個性的な株は環境の変化や病気などに弱い場合も多いですから、順調に育つとも限りません。育ったとしても、交配からタネを採って、次の花が咲くのはまた2年後。これを繰り返し、同じ性質を持つ株がコンスタントに生産できるようになって、ようやく『新品種』として、登録が可能になるのです。10年や20年は、あっという間に過ぎます。父から子へ、2世代かけて育種している生産者さんも少なくありません」

 

「農業は一般的に薄利多売ですから、食べていくためには、1万粒のタネをまいたら、9000株くらいを出荷しないと採算が合いません。けれど、育種に力を注ぐ生産者さんたちは、ハウス2~3棟を犠牲にして、苗の生産と同様に育種にも力を注いでいます。

『なぜ儲からないことに、ここまで熱心になれるんだろう?』と、最初は不思議な気持ちもありました。しかし、実際に生産者さんたちと接して、これは『伝統文化』なのだと感じるようになりました。日本は、江戸時代からサクラ、ツバキ、アサガオ、キクなど新品種の開発に熱心な園芸大国でした。幕末に来日したイギリスの植物学者ロバート・フォーチュンは『日本人の国民性の特色は、庶民でも生来の花好きであることだ。花を愛する国民性が、文化生活の高さを証明するのだとすれば、日本の庶民はイギリスの同じ階級と比べて、ずっと優れているように見える。』と、著書『幕末日本探訪記』に書き残しています。

 

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花色も花形も驚くほど多種多様な、江戸菊。

(撮影/徳江彰彦)

 

「シクラメンをはじめ、さまざまな草花の『誰も見たことのない花をつくりたい』という情熱には、江戸時代から続く『園芸文化』に対する、生産者さんの使命を感じるのです。私も、園芸に携わる人間の一人として、この文化を絶やすことがないよう、何か少しでもお手伝いができれば、と考えています」

 

そんなふうに長年の苦労を重ねて誕生した新しい魅力的な花。それなのに品種名もなしに、単に「シクラメン」として流通しているものがあるのは、なぜでしょう?

 

「一つには、新品種などの登録には手間とお金がかかるため、ある程度の生産量が見込めないと難しいという事情があります。そしてもう一つは、忙しすぎて『名前を考えている時間がない』ということです。思い入れは強いので、素敵な名前をつけたいんです。適当な名前はイヤなんです。でも、じっくり考えるには時間がない......というジレンマ。たとえば、12月号の表紙にも採用していただいたワインレッドのシクラメン。正式な名前がありませんが、これは2020年に初めてお目見えした花で、深い花色と甘い香りが特徴です。しかし、2年前といえばすでにコロナ禍。花き市場のセリはリモートで行われました。画面越しでは花色もよくわからず香りも伝わらず、こんなに美しいのに、あまり評価がよくなかったそうです。それで生産者さんはガッカリしてしまったのだとか......。今回の撮影では『こんなシクラメン見たことない!』と、スタッフの皆さんにも大人気だったので、もし、よい名前を思いついたら、教えてもらいたいですね」

 

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どなたか、この子によい名前を考えてくださいませんか?〈12月号の表紙・33ページで紹介したシクラメン。名前はまだない〉

 

「新品種の親として選抜されるのは、1万粒のタネをまいても、そのうち2~3株。残りはどうなるかというと、そのまま単なる『シクラメン』として出荷されることがあります。特徴的な個性がないだけで、一般的には十分美しい花が咲きますから、きちんと育つ丈夫な苗は市場に出されます。ですから『シクラメン』として、十把一絡げで売られている苗のなかに、キラッと輝く個性派がまぎれている可能性があるんですよ。試験的な育種交配で、残念ながら合格点ではなかったけれど、いい線までいった子が無名の『シクラメン』にまぎれている、という場合があるわけです」

 

「これはシクラメンに限らず、いろいろな草花にありえます。私も以前、園芸店でお手ごろ価格で売られている無名のビオラの苗に、見たこともないようなイエローグリーンの花が咲いているのを発見して、驚いたことがありました。無名株のなかから『宝さがし』をするのも楽しいですよ」

 

「たくさんの生産者さんを巡った経験から、私が不思議に思うことがあります。それは、美しい花を生み出す生産農家さんの近くには、かなりの高確率で大きな神社仏閣や遺跡があることです。たとえば、出雲大社の近くだったり、箸墓(はしはか)古墳がお隣だったり、有名でなくても大きな寺院があったり......。花が美しくなるのに、神聖な力が働くんでしょうか。何の根拠もありませんが、美しい花を眺めていると、人知の及ばない世界を垣間見た気がすることもあります。花はよいですね。心が洗われます。私もこの美しい文化を、できるだけたくさんの人に伝えていきたいです」

 

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12月号で塩見さんが紹介してくれたシクラメンたち

〈終わり〉

 

前編から読む

 

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塩見亮一(しおみ・りょういち)

花き商品販売会社勤務。花き商品の販売や企画を担当。生産者から直接話を聞くために、全国各地の栽培農家を巡る。つくり手の想いを消費者に伝える橋渡し役を心がけている。

 

(撮影/田中雅也)

 

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テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)

 

『趣味の園芸』2022年12月号 好評発売中

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彩りの少ない冬に、花色も花形もバリエーション豊かなシクラメン。赤、白、紫、ピンクに黄色。八重咲き、ベル咲き、フリンジ咲き。12月号では生産者のこだわりと愛情が詰まったシクラメンの自信作を、塩見さんが厳選。進化するシクラメンを紹介します。

 

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テキスト『趣味の園芸』2022年12月号

 

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