母の薔薇（という愚痴のようなもの）

今は首都圏に住んでいるけれど、元々実家は北海道。

私の祖母は50坪ほどの庭がある家に住んでおり、植物が大好きだ。今でこそ足腰が不自由になり庭仕事はできなくなったが、種からチューリップを育てて咲かせてみたり、幼児の私との観察のためにアスパラを育ててくれたり、家の何もない鉢植えに何かが生えてきたら、花が咲くかもしれないと雑草も育ててみる、そんな人だ。亡き祖父も農業とは関係のないサラリーマンだったが、退職後は野菜作りに精を出していた。

その子供である私の母。若いころは一切園芸に興味を持っていなかったようだが、50代寸前あたりから祖父に影響され畑をはじめ、教えてくれていた人が他界してしまったため数年で野菜はやめてしまったが、その後も自宅の狭い庭で、買ってきたペチュニア、パセリ、チューリップの球根なんかを植えている。
この狭い庭というのは引っ越してきたときに作られたものであり、ツツジやシャクナゲなんかが当時から植えられているのだが、この『野菜を育て初めて数年後』になるまでほぼ放置されていたため、ある区画は雑草の森、ギボウシは成長し放題、ツツジの葉はしょぼしょぼ、シャクナゲは世話をしていないのでほぼ咲かず、おまけにツツジの近くには謎の低木？の種がどこからか飛んできていつの間にか生えており、最早どうしようもなくなっていた。しかし空きスペースはあるのでその部分をある程度整理し、上に書いたように好きな一年草を植えたり、チューリップを植えたり、そんな園芸をしているようだった。
一方の自分は植物は好きなのだが虫が大の苦手で園芸を始められていなかったものの、子供が生まれたことをきっかけに、趣味と教育を兼ねてようやく重い腰を上げた。
これが数年前。

そして園芸について本やネットで勉強する日々を送りつつ帰省したある日、突然庭に薔薇の大苗と思われるものが植えられていた。ハイブリッド・ティー系、というものと思われる。
私は現在でも薔薇の知識はほぼないが、放置して立派にできるようなものではないという程度の認識はあった。母は元々仕事で多忙であり、道外出張も多い。地植えのチューリップや一年草ならまだいいけれど、とても薔薇なんて世話しきれないであろうと心配だった。予想通り、２年目にはあまり花がついていなかったようだ。私は薔薇を可哀想に思い、帰省した際に調べて、たまたま肥料をあげられる月であったため、肥料をしっかりあげておいた。
そうして翌年のことだ。
花が咲く季節は済んだ頃に帰省して、今年の薔薇はどうだったかと母に尋ねた。すると「花がたくさん咲いた」と母が言うので私は単純にうれしくなり、肥料をあげておいてよかったと話した。が、次に聞こえたのは「いらなかった。たくさん咲いて嫌だった」であった。
はあ。
なんでも、購入したときと違う色が翌年から咲いて、好きではないのでもう咲いてほしくはないらしい。台木の花が咲いてしまったのだろうか。詳しいことはわからないが。
好きではない色が咲いてしまった、その気持ちを同意はせずとも理解できないわけではないが。私は一年草が枯れるのがなんとなく寂しいタイプで宿根草やら多年草を植えがちだし、バジルも冬越しさせてしまったことがある。しかしその私も本心から嫌そうな母の物言いに、じゃあ抜いてしまえよ……と思ったくらいである。病気になっても困るし。

私は自宅にヒスイカズラとプルメリアという少々大きな子たちがおり、冬は広い窓がある和室に入れて日に当てている。他にも和室の窓辺に食虫直物やマダガスカルジャスミン、サンセベリアなんかも置いて温かくさせているのだが、その真冬の日、たまたま母が仕事の都合でこちらに来ており宿泊を希望したためその和室に泊まってもらった。そうしたらヒスイカズラが邪魔だからすぐに切れだのプルメリアが大きすぎるだの鉢数が多すぎるだの……その子たちは初心者の私が試行錯誤しながら育てている大事な植物なのだが……。ヒスイカズラが四年の末に蕾をつけたと教えても興味なし。もちろんこの後ヒスイカズラは切らなかった。剪定時期じゃないし。
私の旦那は植物にまったく興味もないが、私が数日家を空けるときに水やりを頼んでも文句を言わないぞ。

いやあ……園芸のスタンスにもいろいろあるとは思うが、本当に合わない。元々性格も合わないのだが。
一体、彼女は何が楽しくて園芸しているのだろう？と素朴な疑問を持たずにはいられない。道具だけは揃っているが。

祖母の庭は祖母が管理できなくなった今、残念ながら雑草がかなり増えてきてしまっている。自分は年に数回しか帰省しないのできちんとした管理は難しいし、夏に帰省したときに草取りをしたい気持ちはあるものの、大きくて何個もあるオニグモの巣や何かの幼虫やらを見たくなくて放置していた。
けど、今年は比較的雑草の少ない玄関付近だけでもきれいにして、宿根草やヒューケラでも植えてみようかなあ。そうすれば祖母はデイサービスに行くときに見たことのない花だ葉っぱだと言って喜ぶだろう。
同じ素人でも、そういう人と植物の話をしたいものである。
一先ず、ヒューケラの種類でも調べようか……と今決めた。