もっと伝えたい タネまく楽しさ〈島田有紀子さん厳選 おすすめの春まき一年草4選〉【趣味の園芸3月号こぼれ話・前編】
『趣味の園芸』2023年3月号の「一年草で花いっぱい」特集では、園芸研究家の島田有紀子さんに、春まき一年草のタネまきのコツを教えていただきました。こぼれ話では、春まき一年草のタネまきの魅力を、さらに詳しく伺います。前編では、島田さんおすすめの春まき一年草を4品種紹介します。
島田有紀子(以下、島):タネまきをおすすめする理由はいろいろありますが、好みの品種を選ぶことができるのは大きなメリットです。店頭で売られている草花は、品種名まで書いていないことがあって、どのようなパフォーマンスを見せるか詳しくわからないことがありますが、タネ袋には品種名が書かれているので、情報を得ることができます。それに、花苗では市販されない草丈の高い品種やめずらしい品種も、タネなら入手できます。各種苗会社のカタログを見てみると、思わぬ掘り出し物に出会えるかもしれませんよ。
編集部(以下、編):どのような品種があるのか、ぜひ教えていただきたいです!
島:今回は4品種ご紹介します。
【おすすめの春まき一年草①】ヒマワリ'小夏'
ヒマワリ'小夏'(写真提供/サカタのタネ)
●開花期(観賞期)/6月下旬~9月下旬
●タネのまきどき/4月中旬~6月中旬(温暖地)
●タネのサイズ/大(※タネの大きさは著者の経験に基づく目安)
まずおすすめしたいのがヒマワリ'小夏'。最小クラスの品種で、花壇植えしても草丈はせいぜい30cm程度です。鉢植えで栽培すれば、もっとコンパクトに育てられます。ヒマワリは草丈の高い植物というイメージがあるかもしれませんが、じつは大小さまざまな草丈の品種があります。
花の咲く向きも、横向きのタイプと上向きのタイプがあります。'小夏'は上向きで、花壇に植えると見下ろした時に目が合って嬉しい! 鉢栽培して手元に置いておくのもかわいいです。3月号p.53で紹介した「多粒まき」にもおすすめの品種です。
★タネまきワンポイント
直根性で、移植を嫌います。花壇に直まきするか、ポットまきしましょう。
【おすすめの春まき一年草②】ニチニチソウ(ビンカ)'トコナツ'シリーズ
'トコナツ'シリーズの「ライラック」。(撮影/丸山滋)
●開花期(観賞期)/7月上旬~10月下旬
●タネのまきどき/4月下旬~6月中旬
●タネのサイズ/小(※タネの大きさは著者の経験に基づく目安)
ニチニチソウのなかでも、夏の暑さと病気に最も強い品種です。ニチニチソウは多湿になると疫病や立枯れ病が出やすいのですが、この品種は強健で病気の心配がほとんどありません。
草丈は70cm以上と一般品種に比べて高く、節間が広いので、風通しがよいです。降雨や水やりによる土の跳ね返り、葉への付着も少なくて済むので、いっそう病気になりにくい! 私はこの品種で病気が出たのを見たことは一度もありません。
膝くらいの草丈で、よく分枝してボリューム感があるので、ほかの品種と見た目も全然違って新鮮です。昔からある品種ですが、ニチニチソウの固定概念を捨てて楽しめます。
★タネまきワンポイント
高温性なので、気温が十分に上がってからタネまきしてください。八重桜が葉桜になってからがまきどきです。雨に強い品種ですが、日当たりのよい軒下で育苗しましょう。
【おすすめの春まき一年草③】カンパニュラ・メジューム(メディウム)'メイ'シリーズ
カンパニュラ・メジューム'メイ'シリーズの「ピンク」(左)と「パープル」(右)。(写真提供/サカタのタネ)
●開花期(観賞期)/5月上旬~6月中旬
●タネのまきどき/5月上旬~6月下旬、または8月中旬~9月中旬(温暖地)
●タネのサイズ/細。コーティング加工〈ペレット種子*〉により小サイズになる場合も(※タネの大きさは著者の経験に基づく目安)
*ペレット種子:指先でつまめないほど微細なタネを、まきやすくするためにコーティングして大きくしたもの。タネまき後、コーティングが溶けるまで霧吹きなどで水分を含ませる。
カンパニュラ・メジューム(フウリンソウ)というと一般に二年草の代表格で、タネまきから1年では咲かない品種がほとんどです。ところが、この品種は生育が早く、一年草として育てることができます。5~6月にまけば翌年の5~6月に開花するのは一般的な二年草の生態ですが、8月中旬~9月中旬にまいても翌5~6月に開花します(一年草の生態)。春にまいたほうが株にボリュームが出ますが、夏まきしても翌春に咲くのは、画期的な育種の成果といえます。カンパニュラ・メジュームを家庭でタネから育てることは少ないと思いますが、これならやってみたい、と思える素晴らしい品種です。
草丈は約80cmで、切り花にしても、花壇の奥に配置してもよいです。長くて立派な花穂には存在感があり、育て上げて自慢したくなる品種です。
★タネまきワンポイント
開花するためには、ある程度大きくなった株が冬の低温にあう必要があります。そこで春まきか夏まき(8月中旬~9月中旬)をして、冬までに株を大きく育てるのが、立派な花を咲かせるポイントになります。
【おすすめの春まき一年草④】ケイトウ'ゆかた'
ケイトウ'ゆかた'シリーズのスカーレット(写真提供/サカタのタネ)
●開花期(観賞期)/7月上旬~10月下旬
●タネのまきどき/4月中旬~6月中旬(温暖地)
●タネのサイズ/小(※タネの大きさは著者の経験に基づく目安)
最後は、羽毛ケイトウの極小品種です。開花時の草丈は10~15cm程度で、草丈のわりに花穂は大きく、インパクトがあります。3号程度の小鉢に1株で植えれば手乗りサイズでかわいいですし、多粒まき(3月号p.53参照)して集団美で楽しむのもおすすめです。多粒まきはデコレーションケーキのように華やかですよ。
短日性*のため、短日期のお盆あたりに多粒まきするといっそうコンパクトな姿になります。この場合、開花期は10月上旬~11月上旬です。もちろん、こんなに小さくはなりませんが、春まきもOKです。まく時期をいろいろと変えて遊んでみてください!
*短日性:夜の長さが一定の時間よりも長くなると花芽の形成が促され、花を咲かせる性質のこと。この性質をもつ植物を短日植物という。アサガオやコスモス、ポインセチアなども短日植物。
★タネまきワンポイント
直根性で移植を嫌うので、箱まきした場合は早めに移植しましょう。根を傷めないよう、ていねいに扱います。
編:どれもおなじみの草花ですが、それぞれこんな品種があるのか、と驚きました。
島:上記のほかに、コスモスもおすすめの春まき一年草です。後編では、コスモスのおすすめ品種や楽しみ方を紹介します!
▼後編はこちら!
島田有紀子(しまだ・ゆきこ)
広島市植物公園勤務ののち、フリーランスに。ぺラルゴニウム、ベゴニア、変わり葉ゼラニウム研究の第一人者。鉢花、草花をはじめ幅広い植物の栽培に精通。タネまきも大好き。著書に『12か月栽培ナビDo 花苗をふやす タネまき・さし木・株分け』(NHK出版)など。
(撮影/田中雅也)
『趣味の園芸』2024年3月号
手軽に花いっぱいが叶う「一年草」の魅力を大特集! この春おすすめの30選、買い方&育て方、タネまきから始める方法、秋だけじゃないコキアの楽しみ方など、ぎゅっと詰め込みました。「憧れを咲かせる 青い花」では、青色の花を活かしたガーデンのつくり方やブルーデージーを取り上げます。稲垣吾郎さんの「グリーンサム」は最終回。
「春はベストシーズン! タネから育てる草花」「島田有紀子のスーパーテクニック タネから楽しむコンテナガーデン」では、春のタネまきについてたっぷりと紹介しています。『趣味の園芸』3月号でお読みいただけます。
●ウェブ限定! 趣味の園芸テキストこぼれ話
『趣味の園芸』編集部によるテキストこぼれ話。最新号の特集や記事に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。【毎月2回公開予定】