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経験ゼロでいぶりがっこ風たくあんに挑んだ男の記録【やさいの時間8・9月号こぼれ話】

経験ゼロでいぶりがっこ風たくあんに挑んだ男の記録【やさいの時間8・9月号こぼれ話】
(撮影/阪口克)

『やさいの時間』8・9月号の特集は「ダイコン、カブ、ハクサイ 育てて、漬けて、季節を楽しむ」です。誌面では、特集の番外編として、編集長による「いぶりがっこ風たくあんに挑戦!」という記事を掲載していますが、ウェブだけで読める「こぼれ話」では、より詳細に、自作いぶりがっこ作りの過程と結果をレポートします。

 

第一話 編集長、立ち上がる

 

『やさいの時間』編集長です。漬物なら特にいぶりがっこが大好き。「漬ける」記事を作るならいぶりがっこを入れたい! 8・9月号の編集会議でそう主張した私は、言い出しっぺとして、自分でいぶりがっこ作りに挑戦し、記事にすることに決めました。

いぶりがっこは、秋田名産のダイコンの漬物で、たくあんの一種ですが燻製の香りが特徴的です。その作り方を調べてみると、生のダイコンを囲炉裏の上で数日間いぶして水分を抜いてから、ぬか、塩、砂糖などに漬けるのだそうです。一般的なたくあんは、天日でダイコンを干してから漬けるのですが、雪国秋田では天日では十分に乾かすのが難しく、このような製法になったと言われています。それであのようないぶされた香りがするんですね。

 

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市販のいぶりがっこ。これを作りたい!(撮影/編集部)

 

しかし、生のダイコンを(まるごと)何日もいぶす、というのはさすがに大がかりすぎて難しいのでは。家庭でも真似できる内容にしたいし...。

そこで、本当の製法で作ることは潔くあきらめました。いぶりがっこの最大の魅力はあの香りだと考え、「燻製の香りのするたくあん」を作る、つまりたくあんを燻製にする、という方針で行くことにしたのです。

 

第二話 たくあんを自作するも敗れる


せっかくなので、たくあんだけでも自作しようと考えました。一般的に店頭に並んでいる青首ダイコンより、白首ダイコンのほうがたくあんに向いていると言います。ちょうど畑で白首のミニダイコンが収穫できたので、2本持ち帰りました。さきほど書いたように、たくあんはダイコンを天日で干してからぬかに漬けるということで、早速ベランダの物干し竿にぶら下げました。

ミニだったせいか、気温が高いせいか(本来は秋冬に行うところ、今回は春に干したので)、何より干す期間が長かったせいか(2週間干してしまいました)、思ったよりシワシワになってしまいました。

 

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左から、干し始め。5日目、これで十分だったかも。忙しくてしばらく放置していたら、2週間干してしまいシワシワに...(撮影/編集部)

 

代わりのダイコンもないので、この干しすぎたダイコンを、ぬか:ザラメ:塩=3:2:1、刻んだ昆布とトウガラシを混ぜたものと一緒に、ジッパー付き保存袋に入れ常温で10日間ほど置きました。

 

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10日漬けたら、ぬかにダイコンの水分が出てきてこんな感じに。

 

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その結果できあがったのがこれ!干しすぎたあとにさらに水分が抜けて、たくあんというより木の根のような堅くシワシワな物体になった。

これは端的に言って失敗だな......ということで、市販のたくあんも2種類購入しておきました。

 

第三話 心強い味方が現れる

 

たくあんも(失敗したけど)準備できたので、あとは燻製をするだけです。といっても経験がなく、一人では自信がなかったので、ある人に協力を要請しました。『やさいの時間』テキストの撮影で活躍してくれているカメラマンの阪口克さんです。焚き火の著書(『ビジュアル版 焚き火のすべて』草思社)や、アウトドア料理の著書(『冒険食堂 子どもの好奇心を刺激するアウトドア料理レシピ』山と溪谷社)などがあり、燻製についても経験豊富です。阪口さんに、まずは燻製について教わりました。

 

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ワイルド系カメラマン阪口克さん

 

「燻製とは煙でいぶすこと(燻煙)で独特の香りをつけ、保存性も高めることです。大きく分けて高温でいぶす「熱燻」とやや高温(30~60℃)でいぶす「温燻」という手法があります。(低温で数日~数週間いぶす「冷燻」という手法は、時間的にも設備的にも一般家庭では難しいです。)一番手軽なのが熱燻で、中華鍋などを使い、10~20分で燻製ができますが、食材に火が通ってしまうので、たくあんも柔らかくなってしまうと思われます。そこで今回は温燻を選択するのがよいでしょう。」

 

という阪口さんの見解に従い、たくあんを温燻することにしました。手軽に温燻をするなら段ボール製の簡易燻製器がおすすめとのこと。ホームセンターなどでキットが手に入るということで、市販の段ボール製燻製キットを用意しました。火をつけて煙を出す燻煙材は、短時間高温で燻製する熱燻の場合はスモークチップを使用することが多いですが、数時間いぶす必要のある温燻は、スモークウッドと呼ばれる、粉状にした木材を固めてブロック状にしたものを使うのが一般的なようです。サクラ、リンゴ、クルミなど木の種類が書いてあります。今回用意したキットにはスモークウッドも入っていましたが、せっかくなら木の種類による香りの違いも体験したく、サクラとリンゴのスモークウッドを別途用意しました。

 

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別途用意した2種類のスモークウッド。3つに割れるようになっていてその1ブロックでだいたい2時間煙が出続けた。

 

今回のキットには、段ボール、スモークウッド、網(食材を置く)、受け皿(スモークウッドを置く)が入っていましたが、ほかに必要なものがないか阪口さんに確認したところ、レンガや石などの重しが必要とのこと。段ボール製の簡易燻製器の中で火を使うので、風で動いたり飛んだりすると大変危険なため、段ボールを固定するのに絶対に重しを用意したほうがよいです。また、カセットコンロを使うバーナー(トーチ)もあるとよいでしょう。スモークウッドはなかなか火がつかないので、ライターだと着火が大変だからです。そのほか、風が強い日は行わない、燻製している間は目を離さない、という注意点も教えてもらいました。

 

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市販の段ボール製燻製キットと重しのレンガ、ガスバーナーを用意した。

 

第四話 いざ燻製


撮影日(燻製日)当日、埼玉県某市にある阪口さんのご自宅にお邪魔して、組み立てた燻製器を2つ、ガレージに設置させてもらいました。阪口さんの指導・監修のもと、たくあんを燻製していきます。

 

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組み立ては迷うことなく簡単。

 

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市販のたくあん2種類、そして自作たくあんを網の上に並べる。

 

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ガスバーナーでスモークウッドに火をつける。皮手袋があると安心。

 

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火がついて煙が出始めたら受け皿に入れて燻製器の中へ。

 

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目を離さず、じっくり2時間、待ち続ける。

 

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2時間後にあけてみると、しっかりと煙でいぶされていた。

 

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取り出していく。

 

第五話 ついに完成、その味は!?

 

いぶりがっこ風たくあん(たくあんの燻製)が完成しました。

 

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上は、リンゴのスモークウッドで燻製したもの。下は、サクラのスモークウッドで燻製したもの(リンゴと特に見た目は変わらず)。


まず、見た目は、今まで食べたことがある秋田のいぶりがっこにくらべ、周りの色が薄いです。やはりあの表面の濃い茶色は、数日間という長い期間いぶすから着く色で、2時間の温燻ではそれほど色が着かないようです。また、燻製する前より水分が抜けて、一回り縮んでいるように感じました。それぞれ薄くスライスして味を確認していきます。

 

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それぞれ香りを確認してから口に入れる。

 

見た目は差がありませんでしたが、リンゴとサクラでは香りがかなり違いました。どちらも燻製の香りですが、リンゴのほうが優しい香りで、サクラはしっかりとスモーキーです。どちらがよりいぶりがっこっぽいかというとサクラに軍配が上がります。目をつぶって食べると、かなりいぶりがっこな気がします。しかし本物のいぶりがっことの違いは、見た目だけでなく、食感にもありました。市販のたくあんは買った状態が水分的にもベストな状態なので、燻製中に水分が抜けてしまって、かなり堅く締まってしまった繊維質な食感になってしまいました。また水分が抜けることで、塩分濃度も上がっています。私が過去に食べてきた本物のいぶりがっこは、もっと水分がありシャキッとしていました。なので、これはあくまで、いぶりがっこ風たくあん、たくあんの燻製であり、本当のいぶりがっこではありません。でもしっかり燻製の香りはあり、ウイスキーのおつまみなどには合いそうです。あとでほかの編集部の人たちにも試食してもらいましたが、感想はみな「悪くない。いぶりがっこっぽい」というものでした。

 

市販のたくあんでも燻製することで水分が抜け堅くなり、塩分濃度も上がってしまいましたが、もともと水分が抜け過ぎ、木の根のようだった自作たくあんは、燻製したことでどうなったでしょうか。

 


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むちゃくちゃ堅くてしょっぱい燻製された繊維そのものになりました。堅くて嚙み切れず、しゃぶってあじわうことしかできません。一番似ているのは、乾燥した(半生ではない)本格的ビーフジャーキーです。ダイコンジャーキーという新たな食べ物を生み出してしまいました。これをしゃぶりながらお酒を飲んだら、一晩中このダイコンジャーキー1本だけでどこまでも飲めそうです(危険)。

 

私の挑戦記はここまでです。最後までお付き合いいただきありがとうございました。再度挑戦することがあれば、次のようなことを試してみたいです。

 

・もっと水分が残った自作たくあんを作り(干す期間と漬ける期間を短く、漬けるときの塩の量も少なく)、今回同様に温燻してみる。

・まるごとのダイコンではなく、切ったダイコンを温燻してから、そのダイコンを漬けてみる(より本当のいぶりがっこプロセスに近づける)。

人生は一度きり、みなさんもいろんな挑戦を楽しんでみてくださいね!!

 

『やさいの時間』8・9月号の特集は「ダイコン、カブ、ハクサイ 育てて、漬けて、季節を楽しむ」です。日本に定着し愛されてきた3つの野菜の、歴史、育て方、そして漬物については、いぶりがっこ実験だけでなく、手軽で本格なキムチや千枚漬け風のカブの漬け方も掲載しています!

 

(撮影/阪口克)

 

次回の「こぼれ話」は、ダイコン、カブ、ハクサイの新たな食べ方のススメ。お楽しみに!〈8月上旬公開予定〉

 

▼これまでのこぼれ話はこちらからお読みいただけます

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『やさいの時間』編集部によるテキストこぼれ話。誌面で紹介しきれなかったお役立ち情報を、ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」で公開!【不定期公開】

 

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『やさいの時間』2024年8・9月号

【秋野菜は今が始めどき号】ダイコン、カブ、ハクサイのタネまき、植えつけ適期は、8・9月です。漬物文化と切っても切れない関係のこの定番野菜を、知って、育てて、漬けて、楽しみつくしましょう!「しづか&太陽のベジ・ガーデン」ではケール、テーブルビートに挑戦。「さすてな菜園プランター」はチンゲンサイ&パクチョイ、茎ブロッコリー&リーフチコリーを育てます。「里山菜園 有機のチカラ」では、"耕さない"ダイコン栽培を伝授します。

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