白砂伸夫さんが最初に手がけたローズガーデン~『趣味の園芸』5月号こぼれ話<前編>
ウェブサイト「みんなの趣味の園芸」だけで読める連載「テキストこぼれ話」。『趣味の園芸』テキストの特集内容に関連して、誌面で紹介しきれなかった情報をお届けします。
5月号の「音楽を奏でるようなローズガーデン」「デザイナーから学ぶ バラの輝かせ方」に登場したランドスケープアーキテクトの白砂伸夫さん。誌面では横浜の2つのガーデンとその庭づくりの秘訣を紹介しましたが、白砂さんが初めてローズガーデンについて考え、デザインしたのは静岡県熱海市にある「アカオハーブ&ローズガーデン」です。20年以上かけてさまざまな試行錯誤をしてきたこのガーデンについて、白砂さんに教えてもらいました。
斜面に作られたアカオハーブ&ローズガーデン(撮影:白砂伸夫)
多種多様な植物が競い合い調和を保つのが自然の姿
「25万坪もの敷地をもつアカオリゾート公国の前社長から相談を受けて、ローズガーデンを提案したのは1990年代のことでした。敷地内にはすでにハーブガーデンがあり、人気もありましたが、高低差のある土地を生かした次世代のガーデンを考えたいということで、ローズガーデンを提案したのです。」
「前社長から、ローズガーデンは日本中どこにでもあるのでは?と言われ、それならということで、今までのハイブリッド・ティー中心ではない、クラシックな雰囲気のあるオールドローズを中心としたオールドローズガーデンを提案しました。」
当時としてはまったく新しいタイプのローズガーデンを構想しました。(撮影:白砂伸夫)
「しかし、オールドローズは一季咲きで、花のない時期が長いため、そこから様々な試みをしながらオールドローズ以外のイングリッシュローズやシュラブ、ポリアンサなど、多くの品種によりローズガーデンを構想しました。さらにバラだけではなく、さまざな色彩の草花を混植して音楽のように響き合う、当時としてはまったく新しいタイプのローズガーデンを作り上げました。」
「今ではこのようにバラと草花の混植が一般的になりましたが、当時はバラと草花を一緒に植えるのはけしからん、というご意見もいただきました。しかし多種多様な植物が競い合い、調和を保っているのが自然の姿であり、自然に従うのがもっとも理にかなった植栽デザインだと考えています。」
自然の地形を大切にし、丘陵地の地形に沿いながらバラの個性を生かした12のガーデンが流れるように連続し、それぞれの庭が楽章にように個性を際立たせ、響きあう音楽のようなローズガーデン。今もまた、音楽が流れるように、ガーデンは年を追うごとに変化していきます。
北向きの斜面のローズガーデン
「熱海の曽我浦の丘陵地にあるガーデンは北側の斜面に位置し、日照条件も悪く、バラ園は平地に、という世界の一般的な共通認識からも外れていました。しかし、斜面地にバラを植えてみると、このような環境でも思った以上にバラは美しい花を咲かせ、丘陵地の自然と地形を生かすという逆転の発想で、世界のどこにもないローズガーデンが誕生したのです。バラと草花の混植のデザインとともに、実際、このような急斜面地にローズガーデンをつくった例は世界に類を見ないということも、2015年にこのガーデンが世界バラ会連合の優秀庭園賞を受賞した理由です。」
アカオハーブ&ローズガーデンは、曽我浦の大自然をオーケストラとして、バラが華麗に主旋律を奏でる、まさに「バラのコンチェルト」と表現してもいいでしょう。バラだけではなく、太平洋を望む雄大な風景や隈研吾氏のデザインによる素敵なカフェもこのガーデンの魅力の一つになっています。
後編はこちら! さらに具体的なローズガーデンのメソッドをお伝えします
(撮影:竹前朗)
白砂伸夫(しらすな・のぶお)
ランドスケープアーキテクト。神戸国際大学国際文化ビジネス・観光学科教授。ランドスケープデザインとガーデンデザインを融合した景観づくりで世界的に活躍。2017年開催の「第33回全国都市緑化よこはまフェア」では統括アドバイザーとして横浜にある3つの庭を再整備し、横浜をバラが咲き誇る名所に変えた。ローズガーデンのデザインにより日本造園学会賞受賞(2018年)。作品集「ローズガーデンデザイン」が世界バラ会連合(WFRS)からLiterary Awardを受賞(2018年)。
「テキストこぼれ話」では、『趣味の園芸』テキストの特集に関連して、担当編集者による講師へのインタビューなどをウェブ限定で公開しています(毎月2回更新予定)
『趣味の園芸』2020年5月号(4/21発売)
5月号では、「音楽を奏でるようなローズガーデン」「デザイナーから学ぶ バラの輝かせ方」の2本の記事で、白砂さんの作曲するようにローズガーデンをつくる方法を紹介しています。