朝井 私はプラントハンターとしてのシーボルトに興味があり、『先生のお庭番』という小説を書きました。書くことで、再認識させられたことがたくさんあります。江戸時代の栽培技術が世界でもトップクラスであったこと、花を愛する人々は身分の垣根を越えていたこと、さらには花や樹木の通信販売なども発達していたことです。
小笠原 当時、イギリスやフランスでも園芸が注目されたことは、プラントハンターやバラを愛したフランスのジョセフィーヌの話からうかがい知れます。ですが、ヨーロッパは王侯貴族の園芸で、日本は園芸の担い手が庶民でした。
朝井 日本の場合、趣味分野となると身分の垣根を易々と越える傾向があるんです。町人、庶民のパワーが非常に強い。園芸の場合、その傾向がとくに顕著です。
小笠原 幕末、日本を訪れたロバート・フォーチュンが、きれいに刈り込まれた樹木、美しい公園のような染井の風景に感嘆し、その驚きを著書『江戸と北京』で記していますね。
朝井 染井といえば、またもや霧島屋に触れざるを得ないんですけれども(笑)、ロバート・フォーチュンを驚嘆させたその風景を作った先駆者も霧島屋ですよね。
小笠原 面白いエピソードがありましてね。霧島屋の最後のころ、当時の伊兵衛は染井の村おこしマップを作っているのです。
朝井 園芸で村おこしですか?
小笠原 はい。ツツジで染井を活性化しようというプロデュースでした。育種したツツジの新品種に『源氏物語』由来の名前を付け、染井の各植木屋さんに置いたのです。
朝井 なるほど。『源氏物語』の各帖の名前を順につけていけば、54軒の植木屋さんに置ける。
小笠原 染井は今でいうオープンガーデンのようになっていました。伊兵衛は花好きにこれらツツジを見て歩いてもらい、最終的に霧島屋にある3本のベニキリシマに到達するという案内図、「源氏名寄躑躅の花道(げんじなよせつつじのはなみち)」を作ったのです。
朝井 オープンガーデンは今日でこそ当たり前のよう行われますが、当時としてはかなり先駆的な発想ですね。しかもその図は、現代の観光地によくあるマップではありませんか。
小笠原 面白いですね。さらに、その図には伊兵衛のこだわりがあるのです。なんと、その図にあるツツジの新品種名のところに、源氏香(*1)という香の表し方を添えています。
朝井 源氏香ですか。伊兵衛の教養の深さはむろん、それを理解して楽しむ人々の存在も素晴らしいですね。何だか、嬉しくなってきます。
小笠原 そうですね。江戸の花好きはつくづく趣味の人たちだったと思います。
*1 源氏香(げんじこう)
いくつかの香をたいて、その香りを当てる遊びの組香の一種。香木5種をそれぞれ5つ準備して組香をすると52種類の組み合わせができることから、これを『源氏物語』になぞらえたのが源氏香。組香に用意された香を5本の縦線で表し、どの香をどの順でたいたかを、その5本の縦線を横線でつないで表すと、独特の図形が52種類、描かれる。その52種類の図形に、最初の「桐壷」と終わりの「夢浮橋」を除いた『源氏物語』52帖の名前が付けられている。
取材協力/名古屋園芸、雑花園文庫
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